ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会は28日、1次リーグA組の試合が小笠山総合運動公園エコパスタジアム(静岡県袋井市)であり、初の決勝トーナメント進出を目指す日本(世界9位)が、優勝候補のアイルランド(同2位)を19-12で破る衝撃の金星を挙げた。

日本はこれで2連勝となり、勝ち点を9に伸ばした。A組の首位に立ち、悲願の1次リーグ突破に向けて大きく前進した。

BBCスポーツ北アイルランドのマイケル・モロウ記者は、「今日のこの結果は、アイルランドに規律が欠けていたわけでも、アイルランドがあがって緊張してしまったからでもなく、日本代表による正真正銘のとてつもないプレイの結果だ」とたたえた。

先制はアイルランド

先制点のチャンスはまず日本に訪れた。前半5分、距離はあるものの、ゴールほぼ正面からのペナルティキックを得た。

しかし、SO田村優が蹴ったボールはポストの左外に。日本サポーターからため息がもれた。

その落胆を深めるように、アイルランドは前半13分、初トライを決めた。

SOジャック・カーティがキックパスで右サイドに出したボールを、WTBギャリー・リングロウズが日本のFB山中亮平と競りながら、ジャンプしてキャッチ。そのままゴールになだれ込んだ。

鮮やかな攻撃に、日本が引き離される可能性をうかがわせた。

キックで食らいつく

ところが日本は、アイルランドの堅い守りに阻まれトライこそ奪えないものの、ペナルティゴールで食らいついた。

前半16分、日本に2度目のペナルティゴールの機会が訪れた。今度もゴールほぼ正面だったが、田村はこれをしっかりと決め、3点を返した。

アイルランドは前半20分、ゴール手前にショートパントをふわりと上げると、空中での競り合いに勝ってボールを後ろにはたいた。FBロブ・カーニーがそれをキャッチし、ゴールに転がり込んでトライを奪った。

カーティがコンバージョンキックも決め、12-3とリードした。

3点差まで迫る

これに対し、日本は前半33分、3たび得たペナルティキックを田村が決めて、6点差に詰め寄った。

さらに前半39分、日本にとってこの試合4度目のペナルティキックを田村がほぼ正面から成功。3点差に迫って、ハーフタイムを迎えた。

Presentational white space

日本は前半、スコアこそリードされたものの、ボール支配率は60%に上った。アイルランドの強力なライン攻撃に対しても体を張って押し戻し、スクラムでも押し負けていなかった。

初戦のロシア戦に比べ、ミスも少なかった。

逆転のトライ

後半に入ると一進一退の攻防が続いた。

後半14分、田村がこの試合5度目となるペナルティゴールを右側から狙うが、左に外した。同点に追いつくチャンスを逃し、サポーターから再び大きなため息がもれた。

しかしその4分後、日本にビッグプレーが出た。

ゴール前に攻め込んだ日本が、マイボールのスクラムからパスをつなぎ左側に展開。最後は素早いパスが途中出場の福岡堅樹に渡り、ゴールに飛び込んで逆転のトライを決めた。

田村はコンバージョンキックも成功。16-12とリードした。

リード広げる

日本はこの後も、アイルランドの突進を早めにつぶすことに成功した。すると後半32分に、6度目のペナルティゴールのチャンスが舞い込んだ。

田村はこれを確実に決め、リードを7点差に広げた。

残り時間が少なくなったアイルランドは、焦りと疲れを見せながらも、ゴール目前まで攻め込んだ。しかし日本はこれを押し戻し、最後は逆に敵陣深くに攻め上がった。

そしてノーサイド。日本は後半、アイルランドに得点を許さず勝利した。

「相手見えていた」

日本はアイルランドと過去7回対戦し、1度も勝つことができなかった。7試合すべて16点以上の差をつけられ、平均の点差は31点という圧倒的な実力の差を見せつけられてきた。

そのアイルランドに対する勝利は、前回W杯の南アフリカ戦の勝利と並んで、日本にとっては「大金星」といえる。

ただ、この試合でいえば、弱者がトリッキーなプレーで強者の足をすくったというより、がっぷり組み合って押し切った展開だった。

前半30分過ぎに交代出場したキャプテンのリーチ マイケルは試合後のインタビューで、「やってきたことを全て出した。全員よくやった。相手が少しプレッシャーがかかったときにやることが、はっきり見えていた」と振り返った。

そして、「勝ちたいというメンタリティが大事だ。やってきたことを信じること、意思統一ができたことが大きい。30分くらい喜んで、次のサモア戦にしっかり切り替えて準備したい」と語った。

日本は10月5日にサモア、13日にスコットランドと対戦する。

「日本は本当に強い」

一方、アイルランドにとっては大きな黒星となった。

W杯の1次リーグではこの試合まで9連勝中だった。「ティア1」と呼ばれる強豪チーム以外にW杯で負けたのは、これが初めてだ。

 

ただ、以前に1次リーグで負けた3試合のうち、2試合は開催国代表との対戦だった(2003年大会のオーストラリアと、2007年大会のフランス)。

開催国の圧倒的な応援に、アイルランドはペースを乱されたのかもしれない。

アイルランドのローリー・ベスト主将は試合後、「難しい試合になると予想していた。自分たちのゲームプランを遂行する日本の力が勝った。こちらはミスが多かった。日本は本当に強いチームで、その素晴らしさを体感した」と話した。

<解説> BBCスポーツ北アイルランド、マイケル・モロウ(静岡)

日本が4年前に英ブライトンで南アフリカに勝って以来、これほど世界中に響き渡るラグビーの勝利はなかったし、ラグビー界が今日目撃したこの勝利の影響はそれほどまでに大きい。

今日のこの結果は、アイルランドに規律が欠けていたわけでも、アイルランドがあがって緊張してしまったからでもなく、日本代表による正真正銘のとてつもないプレイの結果だ。しかもそれは、自国代表が1メートル進むごとに、タックルをひとつ成功させるごとに、ターンオーバーを獲得するごとに、毎回信じがたいほどの大音量で応援し続けた観衆を前に、実現したものだ。

今後さらに6週間続くラグビーの戦いの中で何が起きたとしても、今夜のこの結果は次世代やその次の世代に受け継がれる、大きな遺産となる。そして日本におけるラグビー人気は、今までとは別次元の高みに駆け上るはずだ。